意外な再会
         〜789女子高生シリーズ  


       



愛しいコマチ、の転生人らしきコマチくん。
菊千代の側からの一方的なそれながら、
劇的な再会を為したその日から、
住まいは遠いがそれでも、日に一度は連絡を取り合うような間柄になった。
今時はメールもあればネット電話もある時代。
アプリを使えば、
ひところの遠距離電話のように莫大なお金がかかるもんでなし。
あんな人の多いところで男を相手に啖呵を切れる度胸や、
着ていたものがあか抜けていたもんだから、
菊千代がちょっとした不良のように見えたらしかったものの。
怖いもの知らずなのは、剣道に打ち込んでいて心胆鍛えられていたからで、
むしろ晩なぞは早く帰宅している良家のお嬢様なことを知り、
どひゃあと驚いたコマチだったらしく。

 『秋の高校総体に出てたべ? 決勝は惜しかっただな。』
 『そっちこそ、交響楽部なんだってな。』

吹奏楽ならウチのガッコにもあっけどよ、
弦楽器もいるから もっと本格的なんだってな。
それも結構有名どころのヴァイオリン担当で、
しかもしかも、
個人的にも“若手の新星”とか言われてるらしいじゃねぇかと。
お互いのことを少しずつ知るのが、くすぐったくも楽しくて。
ところがところが、

 「……尊敬していた先生から、
  高校入学おめでとうって譲ってもらったらしい、
  有名なヴァイオリンを盗まれたって。」

今時は、畑からサクランボを盗む奴もいりゃ、
側溝や消火栓の蓋から、
工事現場に敷かれた重機を安定させる鉄板だって持ってくし、
果ては自分が卒業した高校の、
ブラスバンド部の楽器を盗み出して売った奴の話だって聞く。
外国人は、日本の自動販売機にそりゃあ驚く。
金や商品も入ってて、何よりそれ自体が高価な機械を
道端に無造作に置きっ放しだったり、
高い山の中腹なんぞに
ぽつんと置いてあるそれらが
ちゃんと機能しているなんて奇跡だそうで。
外国じゃあ、無防備に放り出してるから悪いって、
とっとと持ってかれるか、小銭を取り出すためにあっと言う間に壊される。

 「結構 高価な逸品だったらしくてな。」

コマチにとっては そんなのおまけなんだけど。
むしろ、誰から譲られたかだけが、
頑張れって気持ちを贈られたってことのほうが大切なんだけど。

 「持ってった奴から、
  それはどうでもいいって扱いされてんだろうことが、
  俺にも腹立ってな。」

今 電話を掛けて来たコマチくんがいるのは、
明後日にも本大会が催される、
某楽器メーカー主催の全国コンクールのために上京して来たホテルから。
溯れば、盗難に遭ったのも、
先月、通っている音楽教室の地方支部予選が
東京の会場で催されるのへと上京した折のこと。
移動にあたって小荷物扱いにしたとか、
ホテルでクロークに預けたなんて扱いは一度もしてはいない。
ただ…東北地方・高校生の部の優勝が決まって、表彰されることとなり、
舞台の袖の控室に、携帯や手荷物と一緒に置いていた、
ほんの数分という隙を衝いて持ち去られたとのことだったので、

 「計画的?」
 「ですよね。」

ケースに入ってたんなら、
それを見ただけじゃあ名品だと判るはずはないし。
行き当たりばったりだってんなら、
もっと無造作な扱いのがごろごろしてた会場だろに…と。
平八と七郎次が言葉少なにうんうんと頷き合い、

 「シマダ、故売屋を。」

久蔵の随分とはしょった言いようが、
場の流れと彼女らの気性とから、何を言いたいのか判るからこそ。
八百萬屋特製ブレンドのコーヒーを片手に、

 「……判らんが判った。」

随分と徳の高い修行僧が、
それでも辛い辛い苦行を為してる最中のような。
彫の深いお顔の眉間に、
深々としわを刻んだ渋面となりつつも、
島田警部補殿がややこしい応じを返したのは、

  ―― そんなものなぞ知らぬと言えば
     一体どうなることなやら

…という先の展開が、
特に気張らずとも あっさりと想像できたからに他ならぬ。
仮にも警察の人間が、
そんな暗部組織の存在、知っていると認めちゃいけないことながら。
他の捜査のおりに、
本命を探査の途中で通過したり脇にいたのを見かけた連中という形で、
実在を知ってしまっている顔触れは、
他でも手掛かりや足場になるだろからと、
摘発はせず、泳がせていたりするもんで。

 「先日、そりゃあ実直な感じのする
  防災関係の責任者のお人が言ってましたよ。」

  ――国や政治がすることならば、
    規格の内だの 法で定められてる制限の内だったの言って、
    それを越える事態への想定を怠けてちゃあいかんのだ

公害とか公的事業から発した事故だとかで
国が訴えられたおりの責任回避によく聞く一言へ、
国民がどんだけ怒かっているかとか。
裁判員制度ってのは、
そういう裁判へこそ適用さしてほしいもんだってこととか。
無関心なんかじゃあない、ちゃんと考えてるからこそ腹を立てもする人への、
そりゃあ誠実な一言だったんですよねと、
そんな前振りを持ち出してから、

 「自分たちへばっかり融通を利かせる行政とか政府とかの側へ、
  在籍し続けたいとされても文句はありませなんだのに。」

もっと大きな巨悪を痛快などんでん返しにて叩いてほしい気もしますし、
それより何より、

 「先ではシチさんを養ってかにゃならないお人だ。」
 「無職になられちゃ困る。」

こういうときだけは口が回る久蔵からの口添えもあった上で、

 「それでも加担してくださるとは、
  見上げたもんです、島田警部補。」

 「………ややこしい褒め方をするな。」

発端の最初から同席していたのも何かの縁。
この、行動力ありすぎな女子高生らを野放しにするより、
いっそ自分が手綱を引いた方がよかろうと
あくまでも合理的に思っただけのことだったのだが。

 「………勘兵衛様。」

さっそくにもデータと、
それを自分よりもきっちりと整理して管理している
佐伯刑事を呼び出しておれば。
やんわりと目許をたわめ、
ああ一緒に行動してくださるのですねと、
うっとり嬉しそうにしておいでの誰かさんが目に入り。

 「…ああ、案ずるな。」

儂が加わるのだ、何の不安があろうものかと。
この子がこうまで喜んでくれるなら、なんて、
微妙に真っ当ではないカラー込みにて、
全力投じてもいいくらいの気力が涌いてしまった、
久々に とっても判りやすいおじさまだったりして?(笑)

 「大丈夫ですかね。
  故売屋探しどころか、
  シンジケート壊滅まで発展しかねない勢いですよ、ありゃあ。」

 「…、…、…。(頷、頷、頷)」

どこか捕らえどころのないおタヌキ様なときの方が、
余裕錫々で頼もしいんじゃあなかろうかと。
他人のカレ氏には至って冷静な、
あとの三華様だったりするのであった。(おいおい)






to be continued. ( 12.03.12.〜 )




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  *菊千代さんが関西弁使うのって何か違和感が強いので
   若い人はそうそうべったべたな関西弁は使わないこと、
   注釈として挿入させていただきました。
   そんなせいで、やたら膨張しちゃって
   まだまだ続きます、すいません。(う〜ん)

  「ところで菊千代、あんたはどうして制服着てたワケ?」

   だからややこしい連中と一緒に補導されかけてもいたわけで。
   いやまあ、
   そういう形ででもいいから警察に接したかった彼女なのは聞いたけど。
   新幹線の中でも目立ったことこの上なかろうにと
   目許を眇め、ここからは着替えなさいねと携帯を操作し、
   体格のいい彼女向けのブティックを検索にかかった七郎次だったのへ、

  「だってよ、そっちの草野へ、
   しかも表向き“修行”に行くことになっての上京だったんだから、
   半端なかっこは出来ねぇし。」

   でも俺、礼服とかスーツとか、
   ぱりっとしたカッコっての持ってなかったんで。

  「お袋もしょうがないなぁって言いつつも、
   ベルトんトコで上げてるスカート下ろしたら何とかなるやろって。」

   土産やて“八ツ橋”持たしてそのまま見送ってくれてな。

  「ちょっと待った、その八ツ橋は?」
  「弁当の代わりに喰った。」
  「え〜〜〜? 信じらんないっ。」

   思い出した、
   アタシ、そっちの草野のおばさまが
   いつもお持ちの八ツ橋、大好きだったのにぃ。

   そんなしょうもないことだけ速攻で思い出すなっての。


     ――まったくだ。
(笑)


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